プロ野球 マスターズリーグに想う
 日曜日朝のTBS系列のテレビ人気番組「サンデーモーニング」には 元日本ハム監督・大沢啓二氏とTBS野球解説者・張本勲氏参加のスポーツコーナー「週刊 ご意見番」がある。”あっぱれ”、”喝”(最近は”小喝”まである)の大声が度々響き渡るので有名であるが、親分肌の”親分”と意固地なまでに自説を曲げようとしない”張さん”の対照が面白く、この番組の目玉のひとつになっている。通常のプロ野球が終わりを告げる頃になると一昨年あたりからであろうか、プロ野球を卒業した”ベテラン”選手たちの活躍が番組に登場し始める。彼らの珍プレーを、そしてかっての活躍を彷彿とさせる見事なプレーを楽しませてくれる。

 しかし、私には少し気になることがある。それは意外なほどの元プロ野球選手たちの体力の衰えである。まともにバットを振れない選手、一塁まできちっと走れない選手、守備でうまく体を使えない選手、そしてかっては剛速球を投げていたとはとても思えない投手など、私には信じられない元プロ野球選手たちが沢山いるのである。

 もちろん、プロ野球の世界は過酷な競争の世界であり、彼らが現役選手であるとき少しくらいの怪我で休めるような世界ではなかったであろうことは重々承知している(このこと自体は問題であるが)。したがって彼等が多かれ少なかれ怪我をし、現役を引退した後に適切なリハビリテーションをしていない場合には、彼等の技量を支える身体能力が急速に失われていったであろうことは想像に難くないのである。テレビで見るだけの私であるが、そんなことを想像させる選手が沢山いるように思われる。

 では、いまの時代にスポーツ選手はプレーやテレビ中継などを通じてなにを私たちに伝えてくれるのであろうか。多かれ少なかれあらゆるスポーツを通じて言えること、それはスポーツをすることの楽しさであろう。しかしその楽しさとは、珍プレーのレベルのことではなく、研究と研鑽・努力によっていかにして高い達成度のプレーをしつつ、ゲームの楽しさを選手と観衆とが共有しエンジョイすることであろう。そして、そのようなことが野球の世界で見られることが、特にプレー人口が減っていると言われ、あるいは様々な問題から人気にかげりが見える野球を再び盛り上げることにつながる可能性があるのである。

 いまの時代にスポーツ選手が示すべきもうひとつ重要な課題は、自分の身体管理の重要さを示すことである。たとえ職業としてのプロ野球選手であったとしても、頂点に立つスポーツ選手であり、身体をいろいろな意味で鍛える人間であることに代わりはない。たとえ怪我をしてプロ選手を引退したとしても、時間をかけてきちんとしたリハビリテーションで怪我を治し、身体管理を徹底し、その上で更に自らのために研鑽を積んでプレーを磨けば、いつまでも若々しく生きられることを私たちに示してもらいたいのである。それをするだけの知識と方法はきっと現役時代に学んだはずである。私は、スポーツとは同じスポーツをするかどうかはともかく、「生涯スポーツ」でなければ意味がないと考える人間である。つまり、子供の時、若いときに身体を鍛えて楽しむスポーツは、中高年になってからの健康維持に役立つものでなければならないと、特に最近思うのである。このことは、近年大きな社会問題になっている成人病克服を睨んでのことである。

 私は上に述べた二つのことを念頭に置いて、このマスターズリーグのことを考えている。野球人口の底辺拡大が叫ばれる中、このマスターズリーグが果たす役割はなにと考えればよいのであろうか。私はゴルフのシニア制度のことを考えている。シニアの大会では決して技術の低いレベルで大会が行なわれているわけではなく、体力では若干劣るであろうが技術はむしろ高いと言ってよいかも知れない。また彼等の身体は、中高年の選手が多いにもかかわらず、きちっとしたトレーニングを積んでいることをうかがわせるのである。そして、そんな高い技術とともに、時には年輪の積み重ねから湧き出るちょっとしたユーモアも楽しもうと、多くのギャラリーが集まるのであろう。

 現在のプロ野球マスターズリーグがゴルフのシニアの大会のようになるためには、どうすればよいであろうか。話は簡単である。きちんとしたトレーニングを積んで、若いときには見せられなかった堅実な、あるいは華麗なそしてまた味わい深いプレーを見せ、あるいは現役時代より速い球を投げてみせることを楽しむのである。鍵となることは、きちんとしたトレーニングを積み、よく動く身体でプレーすることであろう。難しいことを言うようであるが、甲子園に出てくる高校野球選手の上を行くプレーをする必要があるのである。ホームページで調べてみたのであるが、ネット裏席で大人1人3,000円前後の入場料が必要なのである。まさに「プロ野球」であり、その料金に見合うプレーをする必要があるのは明らかであろう。そうなって初めて、このマスターズリーグは今後の野球とスポーツ全般の振興に大いなる役割を果たせるとともに、引退したプロ野球選手の息の長い第二の生活場所にもなりうる可能性があるのである。折角の「プロ野球 マスターズリーグ」という優れたアイディアを存分に生かしたもらいたいものである。

 私にとっては、度々テレビニュースに登場するあの村田兆治投手の「まさかり投法」、そしてそのスピードボールやフォークボールの切れ味は感動ものである。また、今年の優勝を決めた札幌・石毛選手のあの鋭いバッティング技術は現役時より素晴らしいのではと錯覚させるほどである。野球殿堂入りしたその村田投手は、欠かさずトレーニングを行っていることは新聞にも紹介されている(読売新聞、1月)。彼等以外にもしっかりトレーニングを積んでこのリーグに参加されている選手は沢山いると推測している。最初に述べたテレビ番組に登場する野球解説者・張本勲氏は、私より1歳年下の弟分である。現役時代の巧みでかつ豪快なバッティングは、マスターズリーグのテレビで見る限り見られないし、ホームページで調べる限り未だにヒットなしのままというのは、往年のプレーを知るものとしてはちょっと、いや、かなり残念である。野球少年であった私は、50歳になってからであるが必死に走るためのトレーニングを積み、いまはハーフマラソンやフルマラソンをそれなりのタイムで楽しむところまできている。忙しい身ではあろうが張本氏にももっとトレーニングを積んでいただき、豪快なバッティングを披露してもらいたいものである。それが今年の秋からのマスターズリーグで見られない場合には、年末か来年の今頃に大声で”喝!”を言い渡そうと考えている。「野球少年張本勲君」の復活が、長い目で見て野球人気復活につながるのである。是非そうなってもらいたい。

                                     (2005年1月17日)