前立腺がんに対する「高線量率組織内照射」治療、その後(1)
まえがき
私は一昨年8月末に、前立腺ガン治療のために大阪大学医学部附属病院において「高線量率組織内照射」なる放射線治療を受けた。そしてその年12月にその治療の内容を私自身のホームページで公開し、そこに「この度の治療の過程で知り得た様々な情報を私の体験として皆さんに公開し、前立腺がんに悩む皆さんが行なわなければならない判断材料の一部として、また皆さんの不安解消に役立てられれば幸いである」と書いた。この約束を守るため、放射線治療から1年7ヶ月が経過したいま、腫瘍マーカーがどのような変動を示してきたかを中心として、簡潔な事後報告を行いたい。
腫瘍マーカー”PSA”値の変動
 上の図で明らかなように、PSA値は放射線治療前のホルモン療法によって大幅に下落し、さらに放射線治療後には多少のでこぼこはあるが継続的に下降を続けている。ここでまず重要なことは、特に疑問視していたわけではなかったが、私の高分化型がん細胞はきちんと女性ホルモンに応答し、増殖能力を低下させることである。すなわち、ひとつの有効な治療方法が存在することが確認できたことである。

 放射線治療の原理は前回にも述べたとおり、細胞分裂活性の低い通常のまともな細胞では障害は少ないが、細胞分裂活性の高い悪性腫瘍は選択的に大きなダメージを受ける点にある。しかも、全摘出手術のように悪性腫瘍を含む前立腺という器官全体を除去するわけではなく、さらに放射線を受けて死滅してゆくがん細胞もすぐに死滅せず、ゆっくりと時間をかけてその数を減らしてゆくことから、 PSA値の下がり方は徐々に、ということになる。もちろん、がん細胞の周りにはそれより遙かに多い健全な細胞も存在したわけであり、それらも放射線を浴びて相対的に低い頻度ではあれ死滅して行くのである。このような事情に加え、今回指標としている腫瘍マーカーは健全な細胞も合成しているある種の酵素タンパク質であることが知られており、元々健全な細胞でもそれが死滅すればそれは血液中のPSA値の増加に貢献することとなる。

 このような理由から、相対的に早く死滅するがん細胞とゆっくりと死滅する健全な細胞のバランスによって血中PSA値の低下速度が左右されることとなる。現在、血中PSA値の正常値の上限は2.1(ng/ml)とされており、2005年1月25日の時点ではそれ以下にまで減少しており、おおむね順調な腫瘍マーカーの動向といえるであろう。


注: 文字用の領域がありません!
その他の副作用
 放射線治療を受けた直後からであるが、顕著な副作用はほとんど感じられていない。多少の頻尿の傾向も当初はあったが、これも普段ならランニングをして十分に汗をかくのに比べ、退院後すぐはそれほど汗をかくようなことをしていなかったことに起因していたようにも思われる。また、頻便の傾向もそれほどでもなく、2ヶ月後あるいは1年後にあるかも知れないといわれた腸からの軽い出血、あるいは尿道狭さくなどの不快な現象も見られず、放射線療法の典型的と言われる副作用はほとんど発生していない。

 下のグラフは、少し警戒すべき私の血液データである。それは、総コレステロール値とグルコース値で、このグラフの左端の年月より遙か以前からグルコースはなんとか制限ぎりぎりであるが、総コレステロールは明らかに正常範囲を逸脱するケースがほとんどである。最近、脂肪燃焼に非常に効率的といわれるトレーニング方法を3ヶ月継続してその値の変動を調べたが、グラフの右端の方をご覧いただければ分かるように全く減少せずに高いままであることが明らかになった。このことは、この高い総コレステロール値の原因は多分家族性のもので、投薬以外に解決方法がないと考えられるようになり、遂にこの2月5日からコレステロール値を下げる投薬を受けることになった。

 このことは前立腺がんの放射線療法と直接の関係はないが、結果として分かることは、このような高いコレステロール値やグルコース値を抱えていても放射線療法を受けることができ、また良好な結果を期待できるということが分かることである。私個人としては、循環器系への過度の負荷を避けるためにも総コレステロール値の早急な低下を期待している。
おわりに
 上に述べたように、腫瘍マーカーの順調な低下、一方で副作用がほとんど自覚されないなどのことを考えると、今回の放射線治療は今のところ順調に推移しているといってよいであろう。これからも、さらにPSA値が下がりつづけ、同時に何の副作用も現れないことを期待したい。


 なお、この文章の内容は、前回同様に大阪大学医学部附属病院泌尿器科および放射線科の医師によって点検を受け、誤りのないことを確認していただいた。ここに深く感謝したい。
                          (2005年2月23日)
付記
 2005年3月23日採血の血液データでは、PSA値は1.58 ng/ml、総コレステロール値は232 mg/dlとなり、より正常値に近づきつつある。また、放射線による治療後に行われたCT検査、骨シンチの結果にも異常は見られず、良好な治療経過と言えるであろう。さらに、このような状況を背景として参加した京都シティハーフマラソン(3月13日)では、昨年秋からの不調を脱し、余力を残して1時間44分 22秒で完走し、それまでの2レースの雪辱を果たした。しかし大事なことは、慎重に制御して走れば十分にこれまで以上の走りを実現できる可能性を示し得たことであった(このことについては近々アップロード予定)。
                            (2005年4月1日)