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原子力発電所事故について発言する私の先生、古川路明氏の意見(1)

  • 2012/04/26 09:24

 私は1959年名古屋大学に入学した(その年の秋に伊勢湾台風に見舞われた)。そして2年後の3年次に理学部化学科に進み、化学、もっと細かく言えば生物化学の分野に進んた。時代はいまとは違って社会的政治的にも問題がありながら活気に満ちていて、はつらつと勉強や様々な活動をした覚えがある。さらにもっと勉強したいとして大学院に進んだ頃、私とは全く分野が違う無機化学・放射化学の分野の助教授(いまの准教授)として古川路明氏が赴任してきた。
 彼は非常に目が悪く瓶底のようなメガネをかけていたが、そんなこともあってか表面的にはあわただしく活動するといったタイプではなく、むしろ静かに振る舞い、あらゆることに好奇心を示し、しかも理論的に物事を考察し、他人に自己の考えを強制するそぶりも見せず、とつとつと語る先生であった。自ら各地の原子力発電所周辺に出向いて近くの松の葉っぱを収集して地道な分析をして原発の危険性を発表し、大学の屋上にも空中のチリを集める集塵機を設置して、いち早くチェルノブイリ原発事故からのチリを収集するなど全く地道に活動された先生である。私はその時にそのチリに含まれる放射線量の大きさをガイガーカウンターの音として聞かされ、その量に驚かされたことを今でも覚えている。
 放射化学の分野に疎い私にとっては素晴らしい先生であるとともに、原子力発電所という形で現れた放射性物質の問題を科学的にも社会的に考察する姿勢を示してくれた先生でもあったし、その古川氏と科学史に関わる講義を担当できたのは私の大きな宝になっている。
 そんなこともあって私の原子力発電所に関する立場は否定的なもので、言葉にして言えば“反原発”である。私は福島第一原子力発電所の事故の1年前に、このブログの場で世界中が原発に依存しつつある状況に対して異議を唱えてきたし(http://www.unique-runner.com/blog/index.php/view/37 )、事故後に書いていることも同様に反原発である(http://www.unique-runner.com/blog/index.php/view/124 )。しかし、だからと言って即刻全原発廃止論者でもない。厳密なデータが供給された上でどうしても“つなぎ”としての原発が必要なら短期間それを利用するのはやむを得ないと考えているが、拙速な再稼働判断は許されない。
 そんなことを原発問題で考える私の恩師は古川氏である。彼からこれまで3回、雑誌に分かりやすく書いた文章が送られてきた。それをここに古いものから順に、3編に分けて公開したい。

「原子力情報資料室通信」8月号(2011年)の原稿

「浜岡原発の運転停止を思う」
                  古川路明
○「東日本大震災」と福島第一原発事故
 原子炉内に存在する大量の放射能から発生する崩壊熱は、原子炉停止後も発生し続け、長期にわたる水による冷却を必要とする。福島第一原発では、地震と津波によってすべての冷却系が破壊され、核燃料が破損し、圧力容器の破壊にいたった。大量の放射能が敷地外に放出され、住民は避難を強いられた。現在にいたるも状況の大きな改善にはいたっていない。
浜岡原発の運転停止
 このような事故が他の原発で起きたらどうなるか。多くの人の頭に浮かんだのは浜岡原発であろう。
浜岡原発は中部電力が保有する唯一の原発である。東海地方に原発立地に適する場所が得がたく、浜岡町にようやく決定できた。
浜岡原発は、敷地に接する港がない国内で唯一の原発である。大量の放射性物質を含み中性子を放出する使用済み核燃料を陸路で3Km離れた御前崎港まで運んでいる。1970年代に放映された中部電力のテレビCMでは「観光にも役立つ重量物運搬道路」といっていたが、あまりにも現実と異なる表現である。
 5月6日、菅総理は浜岡原発の運転停止の意向を示した。しかし、かならずしも原発が閉鎖されるようにはみえない。私は浜岡原発は廃止されねばならないと思う。その理由は二つある。第一は巨大地震がこの地方で起こる可能性が大きいことである。多くの地震学者が指摘するように、福島原発の場合より浜岡原発は甚大な破壊を招く恐れがある。津波がなくても、原子炉が破壊されるであろう。多くの地域が放射性物質で汚染され、土地を放棄せねばならない事態にいたる。
 第二は、原発周辺地域の状況が福島の場合と異なることである。東海道新幹線の掛川駅は原発から20kmの距離にあり、東名高速道路は約40kmの地域を走っている。東西の交通路に重大な影響をもたらすことは間違いない。浜松市から静岡市にいたる一帯は居住者も多く、農業・水産業が盛んで重要な工場もある。人口が200万人を超える名古屋は約120kmの地点にあり、東京まででも約200kmである。気象状況次第では、このような地域にも放射性物質が降下すると考えられる。福島原発の場合よりもはるかに大きな影響があると思う。
日本中のすべての原発を見渡しても、浜岡原発はもっとも事故の影響が大きいのではないだろうか。一刻も早く運転停止から廃炉への道が開かれることを望みたい。浜岡原発には5基の原子炉があるが、運転を停止している2基をのぞくと電気出力は350万kwで、中部電力の総電気出力の20%以下である。原発がなくてもどうにかなる。
 日本全体を考えても原子炉を新設せず、既存の原子炉は老朽化したものから廃炉にしてゆけばよい。世界有数の地震国である日本のエネルギー問題は、原子力発電抜きで考えねばなるまい。

 なお、写真は、象徴的な意味で昨年3月13日、事故から2日目の読売新聞の一面の写真を掲載した。誰もそんな記事を忘れてはいないだろうけど・・・。

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