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2012年04月の記事は以下のとおりです。

原子力発電所事故について発言する私の先生、古川路明氏の意見(3)

  • 2012/04/26 11:22

 ここには古川路明氏の文章を掲載しています。「原子力発電所事故について発言する私の先生、古川路明氏の意見(1)」から順にお読みいただければ幸いです。

「原子力資料情報室通信」5月号(2012)の原稿

「福島第一原発事故から1年が経って―今思っていること」
                      古川路明

 454号に伴秀幸さんが「原発いらない!3・11福島県民大集会」について、書いているが、私も郡山市開成山球場の別の場所に独りで座っていた。伴さんとは異なる問題に私の関心があると思うので、気になったことを記してみる。

○集会会場に到着するまで
 郡山駅に11時半に到着した。集会開始の13時までに時間の余裕があると考えて駅構内でゆっくり食事をとった。駅から会場に行くバスの便は少なく、会場近くのバス停に到着するまでに30分以上かかった。ようやく会場に入れたが、すでに「オープニング・コンサート」は始まっていて、加藤登紀子さんの出番が近かった。

○集会の流れ
 開会のことば、呼びかけ人代表あいさつに続いて大江健三郎さんが「連帯のあいさつ」を述べた。このような場合のあいさつは決してやさしいものではないが、彼は文学者らしく少ない言葉の中に重要な点を述べ、かつ後に話す人のことも配慮しているように見えた。1935年生まれの大江さんは私より1歳年下である。最初の「国民学校1年生」であった頃の記憶がずっと残っていて話の中にそれが表れていた。
 14時46分からの「黙祷」をはさんで「県民の訴え」が続き、「集会宣言」を採択して集会は終了した。

○ 「県民の訴え」を聞いて
 私としては福島県民の生の声を聞いたことが非常に有意義であった。メモも取ってないし、録音もしなかったが、その中で特に印象に残った二つの訴えのあらましを記す。
① 福島県産の新米の放射性セシウム汚染について語った方がいた。彼は怒りをこめた口調で次のような趣旨の話をした。「米が汚染されたことは確かだろうが、その比率は1%以下で他の新米は汚染されていない。この事実を新聞やテレビ放送は正確に伝えず、福島県産の米は全て汚染されているような印象を与えていた。都会に住む人は福島県産の米は買わないという態度をとるようになったようである。ほんとうに残念だ」
 私はこの意見を当然のことだと受け止めている。多くの新聞などは「汚染されている」ということを伝えるのみで重要な情報が抜けている場合が多かった。テレビの番組では映像として見やすいものに重点があり、この重要な情報を正確に伝えていなかったのであろう。私ならば、「福島県産の新米のごく一部に放射能汚染が見出されたが、それは全て出荷停止となっている、福島県産の新米を食用に供しても何の問題もない」と伝えたい。
② 津波で破壊された地域の復旧について語った方もいた。その趣旨は次のとおりである。「地域の復旧は重要であるが、地域住民が望む工事はなされていない。住民の意見を十分に聞いてほしい」
これもありそうなことである。この災害を「ビジネス・チャンス」と受け取って勝手な復旧工事を進めることもあろう。地元住民にとって、これは「人災」の一つではないだろうか。

○充実した「集会宣言」
 2700字に及ぶ集会宣言の最後の部分を引用する。
『福島県では議会も知事も、県内の全ての原発を廃炉にすることを求めています。これは県民の気持ちを代弁するものであり、政府並びに東京電力は、直ちに公式にこれを受け入れるべきです。そして私たちは、原子力施設をかかえる全国の地域住民および地方自治体に呼びかけます。福島の惨禍は、明日のあなた方の地域の惨禍になる可能性が十分にあります。大事故というものは、全く同じ原因と経過で生じることはありません。たとえ津波対策を講じても、別の原因で大事故が起こる可能性は決して消えるものではありません。チェルノブイリを教訓にできなかった日本人が、自国の大惨事を教訓にできないとしたら、それこそ国民的悲劇と言わなければなりません。
 とりわけ私たちは首都圏の皆さんに訴えます。福島原発は東京電力の原発です。首都圏の繁栄を支えるエネルギーを供給してきたのです。その福島原発は、私たちの力で何としても全て廃炉に追い込みます。しかしまだ、東京電力には新潟の原発があります。青森の原発も建設途上にあります。原子力発電の興廃の鍵を握っているのは、電源立地地域だけではありません。電力を大量に消費する大都市住民の「生き方」が正面から問われているのです。
 「原発はいらない!」私たちはいま、全国民に向け、高らかに宣言します。ひとたび起これば、きわめて広範囲に取り返しのつかない被害を及ぼし、人々や地域から未来を奪ってしまう放射能災害を、二度とこの国土に招いてはなりません。私たちは全ての心ある人々に呼びかけます。福島の犠牲を断じて無駄にしないために、ともに、「原発はいらない!」の声を大きく挙げましょう。
  2012年3月11日 原発いらない!3・11福島県民大集会』

 どれも貴重な意見である。多くの県民の様々な意見を取りまとめるには大変な苦労があったであろう。福島県以外の人、特に首都圏に住む人はこれを読んでよく考える必要があるのではないだろうか。

原子力発電所事故について発言する私の先生、古川路明氏の意見(2)

  • 2012/04/26 11:12

 ここには古川路明氏の文章を掲載しています。「原子力発電所事故について発言する私の先生、古川路明氏の意見(1)」から順にお読みいただければ幸いです。

「原子力資料情報室通信」11月号(2011)の原稿

「福島第一原発の放出放射能を考える」
                    古川路明

 「東日本大震災」による福島第一原発事故から220日が経過した。放射能汚染の影響は重要であるが、誤解を招く情報も少なくない。このような情況の中で、9月21日―23日に長野市で開催された「日本放射化学会年会」に出席して議論したことは有意義であった。ここでは、学会で得た情報に基づいて放出放射能について考えていることを述べてみたい。

○福島第一原発事故に関わる特別講演
 この学会では、一般人も参加できる特別講演が開催され、3人の専門家が話した。
「福島原発事故の経緯と現状」
「中長期措置検討専門部会」の座長である京都大学原子炉実験所の山名元氏は、基本的な問題について語った。講演要旨のまとめの部分を以下に転載する。
『この専門部会において、破損した建屋の措置や、炉心内の破損燃料(デブリ)の取り出し、使用済燃料の取り出しと保管、などの様々な中長期的措置についての検討が開始されている。最終的に福島第一発電所を廃止に持ち込むためには、炉内の観察、デブリの性状の分析、高度な遠隔装置の開発、回収容器や保管等、様々な研究開発を進めた上で、総合的な取り組みが必要とされる。』
専門部会の座長と大学教員の職務を兼ねるには、悩みも多いであろう。福島第一原発の現状の厳しさと山名氏の立場の微妙さが伝わる文章である。

○「放射性物質の環境での挙動と飲食物への移行」
 学習院大学理学部の村松康行氏は、放射能の土壌から食物に移行する過程に関する実証的研究の概要を述べた。講演要旨の中の重要な部分を転載する。
『果物に関しては、土壌から根を通じた移行は少ないが、事故時に葉が出ていたもの(ビワ)や花を咲かせていたもの(ウメ)で放射性セシウムの規制値を超えるケースが見られた。また、樹皮に付着した放射性セシウムが果実へ転流する現象も認められたが、実が大きくなるにつれて濃度が下がり、サクランボ、モモなどでは規制値を大幅に下回っている。
 飲料水中の放射性セシウムはほとんど検出できないレベルである。これは、セシウムは土壌に吸着され易く地下にしみ込みにくいことに関係している。川の中では泥などの粒子に吸着され堆積物に移行する。また、浄水場でも沈殿し易く、水道水も入っていきにくい。
 海産物については海水で薄められるため、今のところ大型の魚などでは高い値が出されていない。しかし、魚の成育環境が汚染されると今後高いものも出てくる可能性も否定できないので、検査体制を充実させる必要があろう。
 その他放出された核種として放射性ストロンチウムが挙げられるが、土壌中の分析データがいくつか出されているが、濃度的には非常に低い。』
 普通の人にとっても役に立つ情報が記されている。環境放射能に以前から関わっている村松氏が今回の事故について真剣に取り組んでいることを心強く思っている。

○「放射線の生体への影響~福島原発事故のリスクを理解するために~」
 放射線医学総合研究所の今岡達彦氏は、放射線の人体への影響について述べた。放射線の人体への影響を述べた部分を以下に転載する。
『現在もっとも信頼性の高い調査は、広島・長崎の原爆被爆者の追跡調査である。これまでの解析によると、30歳で1シーベルト(1000ミリシーベルト)を被ばくした場合のがんリスクは被ばくしない場合の約1.5倍(すなわち0.5倍分の増加)で、その増加の程度は線量が低いほど小さくなる。しかし100ミリシーベルト以下での影響の有無は、統計学的な限界のために確認できない。原爆被ばくは放射線をかなり短い時間のうちに受けた事例であるが、今回の事故はゆっくりと時間をかけて被ばくする状況であり、がんリスクはさらに低くなる可能性がある。放射線以外のがんの原因や死亡原因と比べても、それほど高いリスクではないだろう。』
放射線の生態影響について様々な考え方があるが、私は今岡氏の考えに賛同している。
 原発周辺の土壌中の放射能の濃度については多くの報告がある。その中に含まれる主要な放射能は、セシウム134(2.06年)とセシウム137(30.1年)と考えてよい。
この学会でも土壌に含まれる放射能についての報告はあったが、その中から微量の放射能まで測定した一つの研究例を紹介する。
愛知医科大学の小島貞男氏は福島県浪江町(原発の北北西8km)で採取した土壌中の放射能濃度を測定した
表1に分析結果と測定誤差(σ)を示す。
表1 福島県浪江町で採取した土壌中の放射能濃度(5月19日現在)

放射能    半減期     放射能濃度
              (ベクレル/g)
アンチモン‐125 2.73年   1.60( 0.07) 
テルル-129 33.6日   616(11)
セシウム‐134  2.06年  1526.2(0.9)
セシウム‐137  30.1年   1850.9(1.0)
バリウム‐140  12.8日 11.3(0.7)
セリウム‐141  32.5日    0.77(0.05)
セリウム‐144  284日    1.59(0.06)
マンガン‐54 312日 0.228(0.010)
コバルト‐58 70.8日     0.053(0.010)
コバルト‐60 5.27年    0.161(0.009)
銀-110m 250日     36.5(0.2)
インジウム114-m 49.5日   2.28(0.16)

表1に示した放射能の中でバリウム140までは核分裂に起源を持ち、それ以後は中性子放射化によって生成した放射能である。
福島第一原発から多種類の放射能が放出されていることは明らかである。今後の人体への影響を考えるときには放射能濃度が高い放射性セシウムのみが問題であろう。しかし、多くの放射能について濃度が得られれば原発からの放射能の放出過程を考える際に役立つ。大量の放射能を含む排液についてもこのような分析結果が得られることを望みたい。

 原子力発電に関わる放射能の問題はあまりにも多い。地震国日本では原発を運転し続けてはいけないと思うが、原発はなくなっても放射能は残る。今後も新しい情報に注目していきたいと考えている。

原子力発電所事故について発言する私の先生、古川路明氏の意見(1)

  • 2012/04/26 09:24

 私は1959年名古屋大学に入学した(その年の秋に伊勢湾台風に見舞われた)。そして2年後の3年次に理学部化学科に進み、化学、もっと細かく言えば生物化学の分野に進んた。時代はいまとは違って社会的政治的にも問題がありながら活気に満ちていて、はつらつと勉強や様々な活動をした覚えがある。さらにもっと勉強したいとして大学院に進んだ頃、私とは全く分野が違う無機化学・放射化学の分野の助教授(いまの准教授)として古川路明氏が赴任してきた。
 彼は非常に目が悪く瓶底のようなメガネをかけていたが、そんなこともあってか表面的にはあわただしく活動するといったタイプではなく、むしろ静かに振る舞い、あらゆることに好奇心を示し、しかも理論的に物事を考察し、他人に自己の考えを強制するそぶりも見せず、とつとつと語る先生であった。自ら各地の原子力発電所周辺に出向いて近くの松の葉っぱを収集して地道な分析をして原発の危険性を発表し、大学の屋上にも空中のチリを集める集塵機を設置して、いち早くチェルノブイリ原発事故からのチリを収集するなど全く地道に活動された先生である。私はその時にそのチリに含まれる放射線量の大きさをガイガーカウンターの音として聞かされ、その量に驚かされたことを今でも覚えている。
 放射化学の分野に疎い私にとっては素晴らしい先生であるとともに、原子力発電所という形で現れた放射性物質の問題を科学的にも社会的に考察する姿勢を示してくれた先生でもあったし、その古川氏と科学史に関わる講義を担当できたのは私の大きな宝になっている。
 そんなこともあって私の原子力発電所に関する立場は否定的なもので、言葉にして言えば“反原発”である。私は福島第一原子力発電所の事故の1年前に、このブログの場で世界中が原発に依存しつつある状況に対して異議を唱えてきたし(http://www.unique-runner.com/blog/index.php/view/37 )、事故後に書いていることも同様に反原発である(http://www.unique-runner.com/blog/index.php/view/124 )。しかし、だからと言って即刻全原発廃止論者でもない。厳密なデータが供給された上でどうしても“つなぎ”としての原発が必要なら短期間それを利用するのはやむを得ないと考えているが、拙速な再稼働判断は許されない。
 そんなことを原発問題で考える私の恩師は古川氏である。彼からこれまで3回、雑誌に分かりやすく書いた文章が送られてきた。それをここに古いものから順に、3編に分けて公開したい。

「原子力情報資料室通信」8月号(2011年)の原稿

「浜岡原発の運転停止を思う」
                  古川路明
○「東日本大震災」と福島第一原発事故
 原子炉内に存在する大量の放射能から発生する崩壊熱は、原子炉停止後も発生し続け、長期にわたる水による冷却を必要とする。福島第一原発では、地震と津波によってすべての冷却系が破壊され、核燃料が破損し、圧力容器の破壊にいたった。大量の放射能が敷地外に放出され、住民は避難を強いられた。現在にいたるも状況の大きな改善にはいたっていない。
浜岡原発の運転停止
 このような事故が他の原発で起きたらどうなるか。多くの人の頭に浮かんだのは浜岡原発であろう。
浜岡原発は中部電力が保有する唯一の原発である。東海地方に原発立地に適する場所が得がたく、浜岡町にようやく決定できた。
浜岡原発は、敷地に接する港がない国内で唯一の原発である。大量の放射性物質を含み中性子を放出する使用済み核燃料を陸路で3Km離れた御前崎港まで運んでいる。1970年代に放映された中部電力のテレビCMでは「観光にも役立つ重量物運搬道路」といっていたが、あまりにも現実と異なる表現である。
 5月6日、菅総理は浜岡原発の運転停止の意向を示した。しかし、かならずしも原発が閉鎖されるようにはみえない。私は浜岡原発は廃止されねばならないと思う。その理由は二つある。第一は巨大地震がこの地方で起こる可能性が大きいことである。多くの地震学者が指摘するように、福島原発の場合より浜岡原発は甚大な破壊を招く恐れがある。津波がなくても、原子炉が破壊されるであろう。多くの地域が放射性物質で汚染され、土地を放棄せねばならない事態にいたる。
 第二は、原発周辺地域の状況が福島の場合と異なることである。東海道新幹線の掛川駅は原発から20kmの距離にあり、東名高速道路は約40kmの地域を走っている。東西の交通路に重大な影響をもたらすことは間違いない。浜松市から静岡市にいたる一帯は居住者も多く、農業・水産業が盛んで重要な工場もある。人口が200万人を超える名古屋は約120kmの地点にあり、東京まででも約200kmである。気象状況次第では、このような地域にも放射性物質が降下すると考えられる。福島原発の場合よりもはるかに大きな影響があると思う。
日本中のすべての原発を見渡しても、浜岡原発はもっとも事故の影響が大きいのではないだろうか。一刻も早く運転停止から廃炉への道が開かれることを望みたい。浜岡原発には5基の原子炉があるが、運転を停止している2基をのぞくと電気出力は350万kwで、中部電力の総電気出力の20%以下である。原発がなくてもどうにかなる。
 日本全体を考えても原子炉を新設せず、既存の原子炉は老朽化したものから廃炉にしてゆけばよい。世界有数の地震国である日本のエネルギー問題は、原子力発電抜きで考えねばなるまい。

 なお、写真は、象徴的な意味で昨年3月13日、事故から2日目の読売新聞の一面の写真を掲載した。誰もそんな記事を忘れてはいないだろうけど・・・。

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