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原子力発電所事故について発言する私の先生、古川路明氏の意見(2)

  • 2012/04/26 11:12

 ここには古川路明氏の文章を掲載しています。「原子力発電所事故について発言する私の先生、古川路明氏の意見(1)」から順にお読みいただければ幸いです。

「原子力資料情報室通信」11月号(2011)の原稿

「福島第一原発の放出放射能を考える」
                    古川路明

 「東日本大震災」による福島第一原発事故から220日が経過した。放射能汚染の影響は重要であるが、誤解を招く情報も少なくない。このような情況の中で、9月21日―23日に長野市で開催された「日本放射化学会年会」に出席して議論したことは有意義であった。ここでは、学会で得た情報に基づいて放出放射能について考えていることを述べてみたい。

○福島第一原発事故に関わる特別講演
 この学会では、一般人も参加できる特別講演が開催され、3人の専門家が話した。
「福島原発事故の経緯と現状」
「中長期措置検討専門部会」の座長である京都大学原子炉実験所の山名元氏は、基本的な問題について語った。講演要旨のまとめの部分を以下に転載する。
『この専門部会において、破損した建屋の措置や、炉心内の破損燃料(デブリ)の取り出し、使用済燃料の取り出しと保管、などの様々な中長期的措置についての検討が開始されている。最終的に福島第一発電所を廃止に持ち込むためには、炉内の観察、デブリの性状の分析、高度な遠隔装置の開発、回収容器や保管等、様々な研究開発を進めた上で、総合的な取り組みが必要とされる。』
専門部会の座長と大学教員の職務を兼ねるには、悩みも多いであろう。福島第一原発の現状の厳しさと山名氏の立場の微妙さが伝わる文章である。

○「放射性物質の環境での挙動と飲食物への移行」
 学習院大学理学部の村松康行氏は、放射能の土壌から食物に移行する過程に関する実証的研究の概要を述べた。講演要旨の中の重要な部分を転載する。
『果物に関しては、土壌から根を通じた移行は少ないが、事故時に葉が出ていたもの(ビワ)や花を咲かせていたもの(ウメ)で放射性セシウムの規制値を超えるケースが見られた。また、樹皮に付着した放射性セシウムが果実へ転流する現象も認められたが、実が大きくなるにつれて濃度が下がり、サクランボ、モモなどでは規制値を大幅に下回っている。
 飲料水中の放射性セシウムはほとんど検出できないレベルである。これは、セシウムは土壌に吸着され易く地下にしみ込みにくいことに関係している。川の中では泥などの粒子に吸着され堆積物に移行する。また、浄水場でも沈殿し易く、水道水も入っていきにくい。
 海産物については海水で薄められるため、今のところ大型の魚などでは高い値が出されていない。しかし、魚の成育環境が汚染されると今後高いものも出てくる可能性も否定できないので、検査体制を充実させる必要があろう。
 その他放出された核種として放射性ストロンチウムが挙げられるが、土壌中の分析データがいくつか出されているが、濃度的には非常に低い。』
 普通の人にとっても役に立つ情報が記されている。環境放射能に以前から関わっている村松氏が今回の事故について真剣に取り組んでいることを心強く思っている。

○「放射線の生体への影響~福島原発事故のリスクを理解するために~」
 放射線医学総合研究所の今岡達彦氏は、放射線の人体への影響について述べた。放射線の人体への影響を述べた部分を以下に転載する。
『現在もっとも信頼性の高い調査は、広島・長崎の原爆被爆者の追跡調査である。これまでの解析によると、30歳で1シーベルト(1000ミリシーベルト)を被ばくした場合のがんリスクは被ばくしない場合の約1.5倍(すなわち0.5倍分の増加)で、その増加の程度は線量が低いほど小さくなる。しかし100ミリシーベルト以下での影響の有無は、統計学的な限界のために確認できない。原爆被ばくは放射線をかなり短い時間のうちに受けた事例であるが、今回の事故はゆっくりと時間をかけて被ばくする状況であり、がんリスクはさらに低くなる可能性がある。放射線以外のがんの原因や死亡原因と比べても、それほど高いリスクではないだろう。』
放射線の生態影響について様々な考え方があるが、私は今岡氏の考えに賛同している。
 原発周辺の土壌中の放射能の濃度については多くの報告がある。その中に含まれる主要な放射能は、セシウム134(2.06年)とセシウム137(30.1年)と考えてよい。
この学会でも土壌に含まれる放射能についての報告はあったが、その中から微量の放射能まで測定した一つの研究例を紹介する。
愛知医科大学の小島貞男氏は福島県浪江町(原発の北北西8km)で採取した土壌中の放射能濃度を測定した
表1に分析結果と測定誤差(σ)を示す。
表1 福島県浪江町で採取した土壌中の放射能濃度(5月19日現在)

放射能    半減期     放射能濃度
              (ベクレル/g)
アンチモン‐125 2.73年   1.60( 0.07) 
テルル-129 33.6日   616(11)
セシウム‐134  2.06年  1526.2(0.9)
セシウム‐137  30.1年   1850.9(1.0)
バリウム‐140  12.8日 11.3(0.7)
セリウム‐141  32.5日    0.77(0.05)
セリウム‐144  284日    1.59(0.06)
マンガン‐54 312日 0.228(0.010)
コバルト‐58 70.8日     0.053(0.010)
コバルト‐60 5.27年    0.161(0.009)
銀-110m 250日     36.5(0.2)
インジウム114-m 49.5日   2.28(0.16)

表1に示した放射能の中でバリウム140までは核分裂に起源を持ち、それ以後は中性子放射化によって生成した放射能である。
福島第一原発から多種類の放射能が放出されていることは明らかである。今後の人体への影響を考えるときには放射能濃度が高い放射性セシウムのみが問題であろう。しかし、多くの放射能について濃度が得られれば原発からの放射能の放出過程を考える際に役立つ。大量の放射能を含む排液についてもこのような分析結果が得られることを望みたい。

 原子力発電に関わる放射能の問題はあまりにも多い。地震国日本では原発を運転し続けてはいけないと思うが、原発はなくなっても放射能は残る。今後も新しい情報に注目していきたいと考えている。

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